バイキングの羅針盤!? 伝説のサンストーンの謎に迫る
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バイキングが航海時に使用したとされるサンストーンの科学的な研究が進んでいます。サンストーンは、鉱物の特殊な特性を利用した太陽コンパスだったのかもしれません。
磁石を使用した羅針盤(コンパス)は中国で発明されました。航海に使用されるようになったのは9世紀から11世紀の間といわれています。
羅針盤のない時代、人々はどのように方位を知り大海原を旅したのでしょうか。それを知る鍵となるのが、北海の覇者バイキングが用いたというサンストーンです。
サンストーンの言い伝え
バイキングを導いた石
今から約1,000年前、西ヨーロッパの海で名を馳せたバイキング。海賊としてのイメージが強いですが、実は交易を目的とする商人でした。霧や雲に覆われやすい高緯度の海では、航路を見定めることが困難です。しかし彼らはサンストーンと呼ばれる不思議な石に導かれ、長距離を旅できたといわれています。
アイスランドの伝承にも登場
アイスランドはバイキングが発見し、居住した地のひとつ。サンストーンは中世の写本が残るアイスランドの古典にも登場します。そこには、王が曇り空にサンストーンを掲げると光が放たれ、隠れた太陽を探し当てることができたと記されています。
サンストーンは太陽コンパス
渡り鳥やミツバチが、迷わずもとの場所に帰ることができるのはなぜだと思いますか。
それは彼らが眼に入る光の方向から太陽の位置を知り、体内時計の情報とあわせて、方角を割り出す能力を持っているからです。これを太陽コンパスといいます。たとえ曇っていても、ある程度の明るさがあれば認識できるようです。
バイキングはサンストーンを使うことによって、動物たちがもつ太陽コンパスのような能力を手にしていたと考えられます。
科学的な検証
どんな鉱物だったのか
現在の天然石業界では、太陽に似たオレンジ色の長石がサンストーンの名で流通しています。名称から誤解されることがありますが、バイキングの伝承とは関係がありません。
では、バイキングが用いたサンストーンはどのような鉱物だったのでしょうか?
バイキングの沈没船や入植地からは、いまだそれらしき遺物が発見されておらず、確かなことはわかっていません。しかし、20世紀後半から科学的に研究が進められ、サンストーンは光学的異方性(光が結晶に入る方向によって異なる進み方をする特性)がはっきりと表れる石だったのではないかといわれています。
偏光フィルターのように使用した説
自然光は、あらゆる方向に振動する光が合わさったものです。光が物質に入ったとき、特定の方向に振動する光だけを通すことを偏光といいます。
光学的異方性をもつ鉱物のなかに光が入ると、光は進み方が異なる2つの偏光に分かれます(複屈折性)。この2つの光線は速度や吸収が異なるため、角度を変えると明るさや色が変化して見えます(多色性)。
1967年、デンマークの考古学者ラムスコウは、スカンジナビア航空が夕暮れ時のナビゲーションに使用していたトワイライトコンパスに着目しました。それは偏光フィルターのクリスタルを回転させ、明るさの変化を見ることで太陽の位置を特定する偏光計でした。
この仕組みをヒントに、彼はサンストーンが偏光フィルターのような特性をもつ鉱物だったという仮説を立てます。
ラムスコウはバイキングが活動していたスカンジナビア地域の鉱物を集め、偏光フィルターのクリスタルと似た構造のものを探しました。そしてたどりついたのが、アイオライト・カルサイト・トルマリンです。実際にこれらを使用して観察すると、ほとんど誤差なく太陽の位置を計測できました。
その後も多くの研究者がさまざまな条件で検証し、曇天時でも部分的に雲のない部分があれば、隠れた太陽の位置を計測できたようです。
複屈折による光のズレを利用した説
サンストーンの使い方には、ほかにも鉱物の複屈折性によって分かれた光を観察したという説があります。
光学的異方性をもつ鉱物は、透かして見ると向こう側のものが2重に見えます。これは、内部で光が2方向に分かれる複屈折が起こるためです。
2011年、フランスの物理学者ロパールの研究チームは、この性質に着目しました。彼らが研究に用いたのは、無色透明のカルサイトです。アイスランドで良質なものが採れたことから、アイスランドスパーとも呼ばれています。
板状のカルサイトの上部に点印を付け、下からカルサイトを透かして見ると印は2つに分かれて見えます。ロパールによれば、2つの点の濃さがちょうど等しくなる角度があり、そのとき上を向いている面が太陽の方向を指しているということです。
実験では、薄明かりでも誤差わずか2、3度という精度を示したといいます。
この方法はアイオライトやトルマリンでも理論上可能ですが、カルサイトの場合と同様に、透明度が高いものを用意する必要があります。
考古学的な発見
16世紀の船で発見された石
2002年、エリザベス朝時代の難破船から板状のカルサイトが見つかりました。船が沈没したのは1592年。バイキングの時代より数百年後の遺物ですが、この発見は羅針盤の代わりとなったという仮説の精度を高めました。
磁気コンパスの針は、船に鉄製品を搭載すると乱れることがあります。サンストーンは、羅針盤の流通後も補助的な道具として、船乗りの間に長く受け継がれていたのかもしれません。
サンストーンと併用したディスク?
太陽の位置を示したというサンストーン。太陽は常に動き、季節によっても軌道が変化します。渡り鳥やミツバチはこうした条件の変化を体内時計によって補完しますが、バイキングが太陽の位置情報から方位を割り出した方法について詳しくはわかりません。
1948年、グリーランドにある11世紀の修道院遺跡で、目盛りのついた円盤状のディスクの欠片が発見されました。近年の研究では、このディスクはバイキングなど北欧の船乗りのもので、サンストーンと組み合わせて方角を割り出す道具だったという説が注目されています。
おわりに
サンストーンとは何だったのか?
本当に存在したのか?
どのように使用されたのか?
多くの謎を解明するべく、現在も世界中の多くの学者が研究を続けています。
バイキングが片手に剣、片手に不思議な宝石を持って氷の大西洋の波を支配していたという伝説が真実だとすれば、大きなロマンを感じます。
天然石・パワーストーンブランド Pascle
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